2022年5月、情報収集をしていると東海地方の海洋生物を見たくなった。ある水族館が目に止まり、マップアプリを立ち上げ距離を確認する。神奈川からはざっと300km。そうだな、車中泊しよう。浜名湖のぷらっとパークで一晩を明かし、残り40kmほどを走り始める。目的地は愛知県にある蒲郡市竹島水族館だ。

耳から愛知県を感じると、間もなく竹島水族館

天気は雨。湿気を多く含んだ空気は、車内に除湿機が欲しくなる重たさがある。一般道で街の中を走っていると、視界にオレンジ色の看板が増えてることに気がつく。信号待ちのタイミングで視線を右にやると、見覚えある「三ケ日みかん」の大きなロゴが見える。スーパーで買い出しをしているとき、よく目にするロゴだ。ここはみかんが美味しいのか。三ヶ日みかんの事を考えただけで、車内の湿気た空気が幾ぶん爽やかになる気がする。

長いトンネルを抜けると、聞こえてくるラジオの周波数が変わってくる。パーソナリティからは方言が聞こえてくるようになり、愛知県に入ったと実感。しばらく車を走らせると、視界に三河湾が入ってくる。バターの上を走るような滑らかな感触の道路は、埋立地の上だとすぐに分かる。運転しやすくドライブに最適だ。整備された道を走っていると、真逆のことが頭をよぎった。手つかずのビーチはどこにあるのだろうか。考えを巡らせている間に目的地が見えてきた。

水族館前の駐車場は無料。車から降りると、建物へ向かって左手奥にある橋が気になる。早く水族館に入りたいが未知への好奇心には抗えず、橋の方へ歩を進める。キレイな整備された気持ちいい公園が目に入ってきた。橋の入り口には「竹島橋」と書いてあり、向こうに見えているのが竹島のようだ。初めての場所は目に入るもの全てが新鮮で頭が活性化するのを感じる。渡りたい気持ちに後ろ髪を引かれながら、水族館の入り口へ戻る。うん、まずはこっちだと思いながら入館料500円を支払う。さぁ、どんな出会いがあるだろう。

入館料と見応えのギャップが楽しい竹島水族館

竹島水族館は、愛知県の蒲郡市（がまごおりし）にある水族館で、
常時およそ５００種類前後、約4500匹の生き物を展示公開しています。
迫力満点で愉快なアシカショー、毎日ヒヤヒヤの世界でここだけ！？のカピバラショーもありますよ。
深海生物の展示種類数ナンバー１です。
外観は古く、ちょっと入るのをためらうかもしれませんが、中は充実しています！
展示生物は、海水も淡水（川や湖など）両方展示しています。
展示は常に変化し、展示生物は日々すこしづつ変わります。
館内はほのぼのとした雰囲気で、ゆっくり生き物たちを見ることができるアットホームな水族館です。
また、入館料が破格なのも自慢の水族館です。
（引用：こんな水族館です – 愛知県蒲郡市公式ホームページ）

外から見た建物はさほど大きくない。500円の入館料はこれまで訪れた水族館と比べてリーズナブルだ。素朴な水族館なのだろうか。この推測は見事に間違っていると、数歩先で理解する事になる。

入ってすぐ、カブトガニに出迎えられる。今日は活発に動きまわっているようだ。ふと説明書きが目に入ってきた。一辺倒な概要だけでなく、より楽しんでほしい担当者の想いとユーモアが見える。

空調で管理された室内は、外の湿気を含んだ重たい空気よりひんやりしている。ネイビーに塗られた壁、照明を落とした空間は、ゆっくりとした時間が進む別世界のようだ。

生物展示だけでなく、学芸員の仕事内容も大きなパネルで紹介されている。スタッフ皆様の仕事に感謝しながら左へ曲がる。入り口から見えた建物の大きさよりも、奥行きの方が長い作りだと分かる。一歩進み、右手にある熱帯の大型淡水魚エリアに思わず目を見開いた。第一印象はとにかく「デカイ」。大型生物のデザインと間近に見える細かなディテールが、力強く圧倒される。恐竜映画のような新鮮なロマンが目の前で動いているのだ。

順路に沿って進むと、サンゴの水槽が空間の中央に設置されている。水槽の高さは大人の腰くらいか。サンゴに生息する生き物を正面だけでなく、前後左右、そして上からも観察できる作りだ。中には色とりどりの魚が泳いでおり、見ていて飽きない。
そういえば、上からも観察できるサンゴの水槽はあまり見たことがない。ダイビングをするとこんな景色なのだろうかと、好奇心を刺激される。下を向いて観察していた顔を上げると、深海コーナーが目に入ってくる。巨大なタカアシガニは迫力があり目を引く。他の共生している生物たちも表情豊かだ。

館内を半分ほど過ぎただろうか。ふと、不思議な感覚が体をめぐる。多様性を「感じている」事にはっとするのだ。展示内容が幅広く、大きさや生育場所の違いが分かりやすい。幅広い展示内容が、猛スピードで海の世界旅行をしていように感じさせてくれる。

蒲郡市竹島水族館では、幅広い展示で多様性を体験できるのが魅力だ。大型生物、地域の生物、深海生物、どれもが印象に残っている。水槽に添えられている学芸員による説明書きは、展示をより魅力的に演出している。静かなディープブルーの世界に灯る仄かな水槽からの明かりは、水の中に目線を集中させてくれる。まるで、絵画をじっくり見せる美術館のようだった。