フレスコボールが作る持続可能な未来を、私達も一緒に広げる魅力。【後編】

フレスコボール。ラケットとボールがあれば楽しめる世界で人気のスポーツだ。競技の普及活動を続け、世界3位の実績もある斉藤亮太さんへ取材した。この競技が作る持続可能な未来を、一緒に広げる魅力を知ることができた。

※本記事は、宣伝会議 第43期 編集・ライター養成講座の卒業制作として作成しています。


逗子海岸でラケットを握る斉藤さん

繋がって、乗り越えていく

「普段はジムのトレーナーとして生活しています。なんだかんだ遠征費とかかかります。日本代表になったからって人生が劇的に変わるわけじゃないです。ただ、ありがたい事に応援して頂けるスポンサー様に活動資金の一部をご支援いただいてます」

そう笑いながらも、活動を続けていく内情を赤裸々に語ってくれた。

国内大会で賞金は無い。仕事を持って生活をするのは大前提となる。ブラジル選手権のとき、文字通り地球の裏側まで行く遠征費の課題があった。応援してくれているスポンサー様や、クラウドファンディングを通して多くの支援があったのは本当にありがたかったと言う。地方で大会が開催されると、遠征費は当然ながら現地までの交通費がかかる。プレーするコート代は基本的に掛からない。道具のラケットは、ファイバー素材だと3万円ほど、木製であれば数千円。他のスポーツより経済的だが、それでも逗子海岸やイベントが開催される場所までの交通費は、塵も積もれば、というやつだ。

普及活動をしていると様々なところに行くので、時間の弊害も出てくる。出先でも稼げる働き方も視野に入れながら、斉藤さんは自身の働き方改革を模索している。

「良いことばかりのフレスコボールですけど、全部が全部うまく行くわけじゃないんですよね。繋がって繋がって前に進んでます」

夏になると逗子海岸は海の家で埋まり、プレーする場所が無くなる。海の家から「この辺りは良いよ」とスペースを提供してもらっている。「海の家の方が理解して協力してくれるのは本当にありがたいです。でも人がもっと増えたらどうしよう」と天井を仰いでいた。

もう一つ、プレー中の音の問題。硬いラケットとゴムのボールが当たる音の一つ一つは小さくとも、たくさん集まると雨音のように大きくなり、周辺より苦情が出ることもあった。当事者でない人にとって、得体の知れない対象が現れると、拒否の理由が簡単に見つかるのは世の常だ。人が多くなったときは一箇所に固まらず数カ所への分散や、ポイント移動、なるべく静かなラケットを使うなど工夫をしている。一緒にフレスコボールを楽しんでいる70歳を超えた方が「音の問題で逗子海岸で出来なくなるのは嫌だ!」と熱い想いで消音ラケットの開発と販売を始めた。プレーだけに収まらないパートナーシップの広がりだ。

「情熱的な温かい人達ばっかりです。どんどん関係の輪が広がってます」

追加注文したシナモンの香りがするツヤツヤのアップルパイを笑顔で頬張った。

企業、教育現場への広がり

ローカル地域での広がりだけでなく、企業の巻き込みも始まっている。

「日本の各地でクラブができ始めていてレベルもどんどん上がってます。地域での盛り上がりが凄いです」

2019年、JFBA公認のクラブは斉藤さんが所属する逗子フレスコボールクラブ(ZFC)を含む3つしかなかった。クラブ数は2021年現在、全国に17クラブと着実に増えている。そんな中、協会公認のフレスコボールクラブを企業がオーナーとなれるクラブオーナー制度が広がりを見せている。コミュニティを活用して広報活動と、地域への貢献をしていくイメージだ。

「『斉藤亮太』を応援してくれている企業様は純粋に頑張っている事を応援してくれています。社会貢献に対してのイメージアップにも繋がっているようです」

違う分野であっても、一緒に上を目指そうという気持ちで選手を応援している企業もいる。最前線で日本代表として、活躍している斉藤さんとの距離の近さが「自分の仕事がこういう所にも繋がるんだ」と社員のモチベーションの一助となる。フレスコボールに企業が関わるメリットは、企業のインナーブランディングに留まらない。ビーチをフィールドとしていること、垣根を超えたコミュニケーションは、社会問題への貢献を通して、企業のイメージアップにも繋がっている。

難易度の高い打ち方は、見ているだけ観客も盛り上がる。(本人提供)

「逗子市の学校に紹介させてもらう機会があって、授業にフレスコボールを取り入れていくことが決まりました」

年明けの1月に、学校で150人規模の教育イベントを予定していると教えてくれた。生徒だけでなく、親世代も一緒に参加するイベントだ。この日を境に、ゲーム、映像コンテンツと並び、家族の選択肢にフレスコボールが入ってくる家庭もあるだろう。次世代に教育を通して広がっていくのは、言葉通りフレスコボールの持続可能な未来に繋がっている。

可能性と未来

取材が進み、気がつけば太陽は伊豆半島の山々に沈んでいた。空は相変わらず雲ひとつ無く、オレンジのグラデーションに変わっている。グラスに入っている氷が溶け切った水を一口のみ、斉藤さんはフレスコボールの可能性を語り始めてくれた。

「過疎地域のコンテンツになる可能性ってあると思うんです。今でも大会だったら100人200人とか集まるので、その地域の経済活動につながっていくケースを作っていきたい。そういった活動を続けると、ゆくゆくはオリンピック競技に採択されるかも知れない。」

大会を開催した場所がフレスコボールの聖地になり、観光名所になるような好循環を作っていく。地域とフレスコボール、お互いに応援し合える関係性となる。地域の活性化と競技の広がりは、お互いの相乗効果により、加速度的に広がっていく。

「楽しんでもらうことが楽しいです。フレスコボールを通しての夢はあるけど、地道なところから一つずつってとこですね」

斉藤さんの目は次の一手を着実に見据えている。

後日、改めてフレスコボールの体験会に参加させてもらった。その日は年代、性別を問わず、200人以上が楽しんでいた。あるペアがボールを遠くに飛ばしてしまい、飛んだ先にいた通りすがりの人が打ち返すシーンがあった。戻ったボールでそのままラリーが続いていた。他のスポーツでこのようなシーンはあるだろうか。繋げるために遠慮なく協力する。フレスコボールを体現するプレーが繰り広げられたのだ。

フレスコボールはパートナーシップを生み、共感を育む。垣根を超えたオープンなコミュニケーションは多様性を生み、世代を超えて次の世代へと繋がっていく。プレーするフィールドを大切にする気持ちは、環境問題に対するアクションへと繋がる。全方位よしのマインドは、ポジティブな影響を社会全体に広げていく。フレスコボールは、いつでも誰でも楽しめる調和のスポーツだ。プレーをするもよし。応援する形で参加をしていくもよし。勝ち負けでなく、繋げていく。私達も参加することで、繋げていくのは可能性。その先にあるのは持続可能な未来だ。

フレスコボールと共に、未来を一緒に作っていく魅力は果てしなく大きい。

関連リンク

@SAITO_RYOTA

一般社団法人 日本フレスコボール協会(JFBA)

この記事を書いた人

大橋哲郎 / 海と人をつなげる編集者
大橋哲郎 / 海と人をつなげる編集者OH! OCEAN 編集長
海をキレイにしたくて、ライティングやWebディレクションやコンテンツ制作をしています。
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